投稿日:2008-10-10 Fri








カリマティから坂を登り、ビシュヌマティ川に架かる橋を渡り、旧王宮広場へと続く
坂道を再び登り始める。
夕暮れの薄明かりから夜の闇に変わり始め、通りの店には灯りがともり始める。
カトマンズ盆地にネワール族の王国が生まれたのは 紀元5世紀のことである。
その王国の名は リッチャビ王国、ネワール族の民にとっては、理想の王国のように
言われている。
その王国は 紀元13世紀初頭に、新たに起こったマッラ王国に取って代られてしまう。
このマッラ王国の時代に 絢爛たるネワール文化が花開くのである。
マッラ王国の中心であったハヌマンドカの歴代のマッラ王の王宮、その周りには
木工芸の粋を尽くして建てられた多くの寺院がある。
ハヌマンドカの王宮から百メートルも離れていない場所には
市場も、ネワールの民たちの住居もある。
それは 王と民衆との新密度の表れでもある。
このマッラ王朝時代には ヒティと呼ばれる石造りの共同の水場、沐浴場が
カトマンズの民のために多く造られた時代だ。
240年前にゴルカからの侵略者 プリティビ・ナラヤン・サハによって、
カトマンズ盆地を征服されるまでは その豊かな土地の滋味によって、
ネワール族はその繁栄を 謳歌していたのだった。
そんな時代の名残りが 旧王宮広場脇の市場にはある。
マッラ王朝時代に建てられた木造建造物の寺院の1階では、様々の商いをする店が
軒を並べる。
売られているものといえば、その大半が 日常必要とするものばかりである。
乾物、穀類、果物、食用油、ダヒ(ネパールヨーグルト)、野菜、
値段を誤魔化すことのできない生活必需品ばかりの店だ。
誠実な商いを何百年にも渡って続けてきたネワール族商人の姿が そこにはある。
ネワール族商人が 誠実というのでなく、ここで商いをするネワール族商人が 誠実な
商いをしているのである。
食料品、雑貨を売って得る利益はささやかなものだ。
そのささやかな利益の積み重ねは 誠実さ、正直さを失ってしまえば、
明日から来る客は いなくなってしまう。
地味な商いの中で、誠実に商いをする人間の落ち着きが その顔からうかがわれる。
昔から続いてきた商いを受け継ぎ、何百年も変わらぬ姿のまま、商いを続ける。
夜の闇の中で 灯りに照らされ、浮かび上がってくるこの市場は
マッラ王国時代のカトマンズの街の姿、人々の姿を髣髴させる。
今 自分がどの時代にいるのかをも 忘れさせてしまうようだ。
このハヌマンドカ周辺には 何か凝縮された気のようなものがある。
だからこそ、マッラ王国の王宮をここに建てたのだろう。
ネワール族の過去の精霊たちが 今も暗闇のそこかしこに佇んでいる、
そんな気もするのである。
この場所で商いをする人も 何百年か過去へと 時代が溯ったとしても、
時代に合わせた服を着て、同じ商いを何の不自然さもなく、続けるだろう。
それでも誰一人困る人はいないだろう。
我々現代人が 一体、何に血迷っているのか、考えさせられる風景だ。
今夜は 市場の建物の上には 三日月が顔を覗かせていた。
ダサインの祭りは この三日月が 満月に変わるまで続いていく。
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